DX戦略とは? 大企業と中小企業のDX化の違いと問題点
近年「企業のDX戦略」というテーマが多くのメディアで頻繁に取り上げられています。しかし、以下のような疑問を持っている企業の経営者、IT担当者なども多いです。
「企業にとってDX戦略とはどういったものか」
「IT化とDX化にはどのような違いがあるのか」
そこで本記事では、政府が推進するDX戦略や、企業規模によって異なるDX戦略の特徴などを深掘りしています。大企業と中小企業では、DX戦略の取り組み方や目指すべき目標に違いがあるため、その相違点を把握してDX化に取り組みましょう。
経済産業省が推進する「DX戦略」とは
近年、経済産業省はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に力を入れており、特に「民間部門でのDX加速」が重視されています。2020年には、民間企業の自主的な取り組みを促進するため「デジタルガバナンス・コード」が策定され、経営者に求められる「実践すべき事項」がまとめられました。
これにより、DXを実施する企業や事業への投資や人材、ビジネス機会が集中することが期待されていますが、政府のDX戦略を実施するには、企業側にも様々な課題があるのが現実です。
政府が定義するDX戦略とは
経済産業省では企業のDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズに基づき、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
2018年9月に経済産業省から公表されたDXレポート(現在「DXレポート2.2」)では、はじめて「2025年の崖」という概念が提唱され、日本企業が古いシステムから脱却してデータ活用をできない場合、2025年以降「毎年最大12兆円の経済損失」を生じる可能性があると指摘されました。このような背景から、政府はDX戦略の推進を議論しています。
デジタル庁の創設
2021年度の政府による骨太方針では、「成長力を生み出す4つの原動力」の中核としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が挙げられました。これを支えるためにデジタル庁が設立され、以下の取り組みが強化されています。
- デジタル・ガバメントの確立
- 民間部門におけるDXの加速
- デジタル人材の育成
- デジタルデバイドの解消
- サイバーセキュリティ対策
デジタル庁では、成長戦略の一環として「民間部門のDX加速」にも取り組んでいます。
また、政府が目指すDX戦略は、単に書類の電子化やデータのデジタル化、データ活用に留まらず「付加価値の創出と競争上の優位性の確立」を目的としており、業務の効率化やコスト削減だけでなく「生産性および収益性の向上」にDXを活用することを意味します。
企業のDX実現には、個々の社員だけでなく、企業全体としての変革が求められるでしょう。
政府が策定するDX戦略の進め方
デジタル技術を駆使して市場を変革する「ゲームチェンジャー」のような新規参入者が増える中、各企業は市場での競争力を強化または維持するためにDXを迅速に進める必要に迫られています。
国としては、2025年に向けて経済産業省を中心に様々な研究会や勉強会を立ち上げ、DX実現のためのITシステムの課題や対応について議論しています。この流れの中で「デジタルガバナンス・コード」が策定され、経営者に求められる「企業価値向上に向けた実践事項」がまとめられました。
デジタルガバナンス・コードは以下の柱立てになっており、それぞれ認定基準が設けられています。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
- 組織づくり・⼈材・企業⽂化に関する⽅策
- IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
【デジタルガバナンスコードの全体構造】
【出典】デジタルガバナンスコード2.0
「デジタルガバナンス・コード」の策定は、経営者が顧客や取引先、地域社会などの利害関係者との対話を積極的に行う企業に対し、資金や人材、ビジネス機会が集中する環境を整備することが目的です。
対象者は、大企業や上場企業に限らず、非上場の中小企業や個人事業主を含む、幅広い事業主に及んでいます。
政府が推進するDX戦略の問題点
政府が推進するDX戦略を実践するにあたり、解決すべき問題や課題がいくつか存在します。主な問題点は、以下の3つです。
- 経営戦略の不足
- DX推進に必要な人材の不足
- システムのブラックボックス化
これらの問題について詳しく解説します。
DX戦略の成功には、デジタル技術を用いた経営改革だけでなく、中長期的な経営戦略は欠かせません。しかし、経済産業省の指摘にもあるように、具体的な経営戦略を持たない企業が多いのが現状です。自社の価値や強み、顧客目線での価値提供を踏まえた「経営戦略の策定」がDXには不可欠です。
また、DXを推進するための人材が不足している企業も多く、この人材不足がDX戦略の障害となっています。
経済産業省の報告(「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討」)によれば、企業のIT費用の約80%が「現行システムの維持」に充てられており、戦略的なIT投資が行われていないことが大きな問題です。今後は、設備やシステムへの投資だけでなく、デジタル人材への積極的な投資も求められます。
これまで短期的なシステム維持に多額の費用を投じてきたことで、自社システムが老朽化、複雑化、ブラックボックス化しており、システム障害への対応が遅れたり、維持費が増大したりすることで、DX戦略への投資が困難になっています。
そのため、DX戦略を進めるために「古くなったシステムの再構築」が必要不可欠です。
大企業の「DX戦略」とは
大企業がDX戦略を推進する最大の目的は「市場での優位性を確立する」ことにあります。これを達成するためには、経営陣を巻き込んだ「経営改革」と「ビジネスモデルの変革」が不可欠です。
しかし、大企業がDX戦略を進める過程には、いくつかの問題や課題が存在します。DXによる完全な成果を得るためには、これらの問題に対する多くの改善が必要です。
日本があらゆる産業で再びリーダーシップを発揮するためには、官民が一体となったDX推進の取り組みが今後も重要となるでしょう。
大企業におけるDX戦略の定義
大企業におけるDX戦略は、単なるIT化やデジタル化を超え「市場における優位性を向上させることを目的とした、デジタル技術を活用した戦略の立案と実行」を指します。DX戦略を推進する上で重要なことは、DXを単なる手段としてではなく、中長期的な視点でロードマップを作成することです。
このロードマップ作成においては、自社業務のIT化やデジタル化だけでなく「ITやデジタル化を進めることで自社にどのような発展がもたらされるか」という視点が重要です。
また、現代のビジネス環境は激しく変化しており、市場競争力を高めるためには、環境の変化に対応した新しいサービスや製品の創出が必要です。これを達成するためには「経営改革」や「ビジネスモデルの変革」がポイントであり、企業のDX戦略には全社的な取り組みが必要となります。
大企業のDX戦略の進め方
大企業が「DX戦略」を進めるための手順は、主に以下の通りです。
DXの目的(経営戦略・ビジョン)の共有
まず、DX戦略を進める目的を社内で共有します。単なるIT化やデジタル化に留まらないよう、「経営戦略」や「自社のビジョン」を明確にし、経営トップがDX戦略の旗振り役になることが理想です。ロードマップの策定
DXが目的にならないよう、中長期的な視点でロードマップを策定します。事業内容や業務フローの確認、現状の問題点の洗い出しを行い、業務視点や技術視点から解決策を検討します。優先順位の設定とコスト計算、ROIの算出も重要です。環境の整備と人材の確保
ロードマップ完成後は、社内環境の整備とDX人材の確保に取り組みます。デジタルデータやIT技術の導入・活用をサポートする部門の設置、DX人材育成のためのマニュアル作成、仮説検証プロセスの確立などが含まれます。既存事業のデジタル化
MAツール、CRM、SFAなどのツールを導入し、既存事業をデジタル化して人的業務を削減します。
世界的な傾向として、DXを通じて市場を変革しようとする新規企業の参入が増加しており、既存企業の市場優位性が低下してきています。日本はDXの面で世界に遅れを取っているため、いかに効果的・効率的に進められるかがポイントです。
大企業のDX戦略における問題点
DX戦略への取り組みは多くの大企業で進んでいますが、それに伴い特有の問題点や課題も明らかになっています。
2021年の一般社団法人中小企業個人情報セキュリティー推進協会「大手企業におけるDX推進」の実態調査によると、大企業の約8割がDXに取り組んでいるものの、その活動が一部の部署に限定されている状況が見受けられます。
大企業におけるDXの推進が難しい理由は、主に以下の通りです。
- 目的の不明確さ
- 企業全体への目的の浸透不足
- 多大なエネルギーが必要
- DX人材の不足
DXを推進する目的が明確でない場合、業務の単なるIT化やデジタル化に留まり、特定の部署だけが関与することになりがちです。
また、大企業ゆえの規模の大きさから、DXが組織全体に浸透することが難しいという問題もあります。DX戦略の成功には、経営陣の理解と変革へのリーダーシップが不可欠となります。
さらに、大企業には過去の成功体験が根付いており、新しい取り組みを始めるためには多大なエネルギーが必要です。社員の中には業務への影響を懸念する人もおり、DXへの抵抗感が強まる傾向があります。
人材不足も深刻な問題で、2021年7月の総務省「令和3年版 情報通信白書」によると、DXの進行が遅れる主な原因として「人材不足」が53.1%を占めています。したがって、DXに関する人材の確保と育成は急務と言えるでしょう。
中小企業の「DX戦略」とは
中小企業におけるDX戦略の主な目的は「顧客視点で新たな価値を発見し、自社ビジネスの発展を図る」ことです。
しかし、大企業にはない「中小企業独自の強み」が存在するにも関わらず、現状では中小企業の約7割がDX化に消極的であり、これにより潜在的なビジネスチャンスを逃している状況となっています。
今後進むであろう少子高齢化社会への対応を考えると、中小企業がDX戦略を自社ビジネスに取り入れることは急務と言えるでしょう。
中小企業におけるDX戦略の定義
中小企業におけるDX戦略とは、進化を続けているデジタル技術を活用しながら「顧客視点」で価値をつくり「自社のビジネスを発展」させていくことです。
自社ビジネスの発展には、ITやデジタル技術を用いた業務の効率化だけでなく、革新的な製品やサービスの創出が重要で、これを実現するためには、顧客視点でのビジネスモデルの見直しや企業文化の変革が必要になります。
また、中小企業の経営者の中には、DXとIT化を同一視している方も多いため、この二つの違いを理解することが重要です。DXは「変革」を目的とし、IT化は「改善」を目的とします。
しかし、多くの中小企業経営者はデジタル技術への関心を持つ余裕がなく、中小企業の約7割がDXを進める意欲がないという現状もあります。そのため、経営者には「変化しなければ取り残される」という危機感を持ってもらうことが必要です。
【出典】独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2023 年)」
DX戦略では、大企業にはない中小企業特有の強みを活かすことができます。その一つが「迅速な行動」です。経営者の即断・即決により組織全体を素早く動かすことができ、DXを短期間で浸透させ、売上を大幅に向上させる可能性があります。
さらに、DXを推進する大企業が増えているため、これらの成功事例を参考にしながら自社のDX戦略を進めることもメリットの一つです。
中小企業のDX戦略の進め方
中小企業が「DX戦略」を迅速かつ効率的に推進するための手順を紹介します。主な手順は、以下の通りです。
経営者がDXを理解する
中小企業におけるDX戦略の推進において、経営者と現場の距離が近いことが大きな強みです。この強みを最大限に活かすためには、経営者がDXを単なるIT/デジタル化以上のもの、すなわち「企業変革の手段」として理解することが重要です。経営者がDXの意義を理解し、その推進役となることで、組織全体を牽引することができます。自社の目標とビジョンを設定する
経営者がDX推進に取り組み始めたら、次に自社の目標とビジョンを明確に設定します。DXを単なる業務効率化に留めず、顧客視点で新たな価値を創出することを目指しましょう。現状と課題を把握する
同時に、自社の現状と課題を把握し、改善点を洗い出す作業を進めます。課題の把握には、業務面とシステム面の両方からのアプローチが重要です。DXを導入する
改善点が明らかになったら、それらを解決するためのITツールを導入します。この際、専門家に全てを任せるのではなく、自社に最適なツールを選定するために専門家と協力して進めることが望ましいです。
ITツールの導入が完了したら、DXの本格的な運用を開始します。短期的な視点だけでなく、中長期的な視野を持ち、PDCAサイクルを回しながらDX戦略を進めていくことが重要です。
中小企業のDX戦略における問題点
中小企業のDX化が進まない理由は、大企業とは根本的に異なります。
多くの中小企業では、種々の要因によってDXに取り組むことが困難で、中小企業のDX化が遅れている主な理由は、以下の通りです。
IT人材の不足
中小企業では、DX推進に必要なIT人材が不足しています。これは、専門的な知識や技術を持つ人材の確保が難しいことに起因しています。DXにかける予算の不足
多くの中小企業で、DXに必要な予算を確保することが困難です。特に効果が不確実な事業への初期投資は、大きなリスクと見なされています。中長期プランの不在
短期的な利益を追求する中小企業が多く、中長期的な視点でDXプランを立てることが難しいです。その結果、DX戦略は経営者から理解を得にくいという問題もあります。
これらの問題を解決するためには、単に業務をデジタル化するだけでなく、デジタルを事業戦略に活用することの重要性を経営者に粘り強く訴え続けることが重要です。
さらに、今後の少子化の進行により人材確保が難しくなる中小企業にとって、DX化は急務な事業の一つです。中小企業が持つ「スピーディに動ける」というメリットや「大企業のDXモデルを参考にできる」という点を活用していくことが望まれます。
海外企業のDX戦略とは
日本では企業のDX導入が遅れていると指摘されていますが、海外企業のDXへの取り組みはどのような状況にあるのでしょうか。また、日本が海外企業に比べてDXでどれほど遅れをとっているのか、海外のDX戦略の現状について解説します。
さらに、日本が海外企業に比べてDXの導入が遅れている理由や、DXの進展が遅い理由も明らかです。2025年問題を乗り越え、再び日本企業が市場での優位性を確立するためには、まず海外企業が進めているDX戦略に追いつくことが必要でしょう。
日本企業と海外企業のDX戦略の違い
これまでに紹介した通り、大企業および中小企業を含め、日本におけるDX戦略は遅れているのが現状です。では、海外の企業、特に米国の企業ではDX戦略がどの程度浸透しているのでしょうか。
2021年12月に情報処理推進機構が発表した『DX白書2021』によると、日本と米国の間でDXの取り組みには大きな差が存在しています。
【DXに取り組んでいる】
- 日本:55.8%
- 米国:79.2%
【DXに取り組んでいない】
- 日本:33.9%
- 米国:14.1%
【出典】DX白書2021(情報処理推進機構)
このデータから明らかなように、日本でもDXを推進する企業は増えてきていますが、アメリカと比較すると、日本の企業のDX戦略は遅れていると言わざるを得ません。
アメリカをはじめとする海外の企業では、顧客との接点をデジタル化し、新しいビジネスモデルへの転換を進めるなど、いわゆる「DXの拡大段階」に突入しています。しかし、日本ではまだ「DX未導入」や「DXの初期段階」にある企業が多く、この状況が続けば市場での競争力を失う恐れがあります。
中国だけでなく、インドや南米などの新興国でもデジタル化が急速に進んでおり、それに伴い企業のDX導入も加速しています。一方で、日本は「金融インフラの整備」や「高齢世代のデジタルに対する意識」の面で遅れを取っており、DXの浸透が進まない現状があります。
海外の先進国や新興国に遅れを取らないためには、日本独自の課題や問題点を解決していく必要があります。
日本企業のDX戦略が海外企業よりも遅れている理由
前述の通り、日本のDX戦略は海外企業に比べて遅れています。では「なぜ日本ではDXが進まないのか」その主な理由を解説します。
日本でDXが進まない主な原因は以下の通りです。
- 経営陣を含めたDXへの理解が不足している
- システム提供会社に依存しすぎる
- DXに関わる人材の不足
- 既存システムが古く、ブラックボックス化している
まず、日本では「DXに対する理解」が圧倒的に不足しています。多くの経営者や経営陣はDXを単なる業務のIT化やデジタル化と捉えており、DX戦略としての「経営改革」や「ビジネスモデルの変革」といった社内全体で取り組むべき目的を明確にしていません。企業のトップが旗振り役となって進めない限り、海外のDX戦略に追いつくことは難しいでしょう。
DX化を進めている企業においても、DX関連部署だけが取り組んでいるケースや、ベンダーに任せきりのケースがあり、自社内でDXに関わる人材が不足しているのが現状です。このDX人材の圧倒的な不足に加え、人材確保や教育にかけるコストが少ないことも大きな原因となっています。
さらに、日本では長年にわたり使用されてきた古いシステムが多く残っており、これらのシステムの維持費に予算が割かれているため、新しいシステムの導入にまで費用をかけることが難しいのが現実です。また、システム開発者が退職するなどして、既存システムが「ブラックボックス化」していることも、DXが進まない大きな原因の一つに挙げられます。
まとめ
様々なデータを見ると、海外企業に比べて「日本企業のDX化の遅れ」は明らかです。さらに、経営に関わる人々のDXに対する意識がまだ低いため、政府は「2025年問題」と名付け、経済産業省を中心に警鐘を鳴らし続けています。
DXとは、業務のIT化やデジタル化だけでなく、経営改革やビジネスモデルの変革、顧客視点での価値創造などを目的とします。そのため、DXを推進するには戦略が必要であり、経営トップが旗振り役となり、組織全体でDXに取り組むことが理想的です。
ただし、大企業と中小企業では「DX化の進め方」や「DX化への課題」が異なるため、政府が示すDXに沿った計画が重要となります。
企業がDX戦略を成功させるためには「人材」や「資金」や「組織の意思統一」など、様々な観点からの取り組みが必要です。関連部署だけではなく、組織全体の取り組みが必要であり、そのためにはまず経営陣の意識変革が重要となるでしょう。
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